韓国家庭料理のお店　　　　　　　　　　　　　　　　「フライペン」

第１７弾　第２回韓国旅行　光州への旅　その６
　
　結局、タクシーの運転手が連れて行ってくれた所は、今の光州中央小学校だった。そこが昔の光州中学だと言う。門の外から見た小学校は、昔の日本の小学校のたたずまいだ。夜半からの雨で、校庭のあちこちに水たまりがある。玄関の横には、松の木と石碑がある。その石碑の上に、薪を背負って本を読む二宮金次郎像でもあれば、確定なのだが、そんなものはとうの昔に取り払われたはずだ。写真は、光州中央小学校である。
　全羅南道庁に続く大きな道から少し入った、日本人街があった所だ。そういう目で見ると、大きい木ならあることはある。ここからなら、軍の自動車が迎えにこなくても良さそうだが、養父の通勤に便乗したと言うことだろうか。
　
　光州中学を卒業する時、医者を目指した父は今の千葉大を受験しに日本に来た。受験に失敗した父は、吉報を待っていた光州の義母のもとには帰らず、東北の実家に帰った。そうなると、結核を患って丙種合格だった父にも、赤紙が来た。

当時、医務官だった養父の縁故が考慮されるということがあったのかどうか、父は衛生兵になった。終戦の時、満州の辺境でロシアの捕虜になり、シベリアのラーゲリ（収容所）を転々とした。ラーゲリの所長のゲーベン大佐は、モスクワの医者の息子だった。戦争で医者になりたくてもなれなかった大佐自身の境遇と父の姿を重ねたのか、大佐と奥さんは父を本当の息子のようにかわいがってくれた。おかげで、父はロシア語を、片言だが話すようになった。
　ある日、大佐に呼ばれた父は、思いがけないことを告げられた。病気ということにして、日本に返してやると言うのだ。

　バイカル湖の辺りを走る列車が、ある駅に止まって、なかなか動かない。貨車の中にいた父は、暗闇の中から、「吉岡！吉岡！」と呼ぶ声を聞いた。貨車の扉を開けると、そこには大佐がいた。「吉岡、日本に帰れ」と言う。そして、「これからは、どんなことがあっても病気だと言え」と、ロシア語で何度も何度も言う。
　ハバロフスクの港に着くと、港には日本の国旗を揚げた船が見える。ロシア兵から明日帰還船に乗ることを告げられた。ついては、健康なものは明日帰還船に乗るが、病気のものはしばらく療養して次の便にすると言う。健康なものは申し出るようにと言われ、ほとんどの手が上がった。
　最後まで手を挙げなかったものだけが、次の日帰還船に乗せられ、舞鶴を目指した。

　それから30年経って、父に肝臓ガンが見つかった。既に手の施しようがない状態だった。肝臓ガンは、過去に肝炎にかからなければ、まずならない。既に医者になっていた自分が、肝炎になったことがあるかと聞くと、「そういえば、シベリアで、黄疸になった」と言う。最期まで、戦争にたたられた人生だった。

　私が小学校の時、「禁じられた遊び」の映画を父と見に行ったことがある。私が「墓を掘って遊んだことが、禁じられた遊びだ」と言うと、父は「禁じられた遊びとは、戦争のことだヨ」と言った。そのようなせりふが映画の中にあったのか、覚えていない。