のむけはえぐすり 第99弾 原善三郎の話 ジャーディン・マセソン商会 その77 香港・中環・Jardine House2008年08月16日 05時10分06秒

香港の中環(central)の皇后像広場から見た夜景

のむけはえぐすり  第99弾

原善三郎の話  ジャーディン・マセソン商会 その77 香港・中環・Jardine House

 

 

当時のイギリスが中国人のアヘン吸飲をどう見ていたか。そのことを書いた「アヘン貿易論争」という本がある。以下の話は、その本をもとにした創作です。

 

187x年のある日、香港の高等法院での風景。    

裁判官(私): それでは、本件事案、中国にアヘンを持ち込んだジャーディン・マセソン商会の「人道に対する罪」の裁判を始めます。まず、本件を構成する要件として、ジャーディン・マセソン商会が、当時、どの程度アヘンの毒性について認識していたのか、これから審議します。被告人陳述、検察側及び弁護側証人による証言を求めます。

 

ジャーディン・マセソン商会被告人陳述: 私たちは1867年にもAlcock中国大使に表明しましたが、アヘンは激しい労働をする中国人にとって慰めであり、めぐみなのであって、禍(わざわい)の元などということはありません。イギリスの労働者にとってのタバコやウィスキーのようなもので、アヘンに重大な毒性があるとは思ってもいませんでした。

 

検察側証人(検)の元中国公使Wade:その意見には賛成はできません。アヘンの消費はジンやウィスキーより何倍も危険な習慣であると、誰もが知っていたはずです。

 

弁護側証人(弁)のイギリス首相グラッドストン: 当時、私は両方の意見を聞きましたが、過度になると悲惨なことになるとは知らされていましたが、適量を守れば問題ないという認識でした。

(弁)王立アヘン委員会メンバー: 委員会でも、アヘンの害毒をそれほど明確に捉えてはいませんでした。確かに、過度に吸えば肉体的、精神的にも悲惨な結果になりますが、イギリスにおける飲酒の習慣と同じ程度のものだという結論でした。

(弁)元インド財務大臣Tevelyan: 今もイギリスには飲んだくれの酔っぱらいや酒乱が町に溢れています。それよりはアヘンの方が、ウラルアルタイ人種の不活発で鈍感な性格に適していたのではないでしょうか。

 

検察: 裁判長! 今の発言は人種差別で、アヘンを売りたいために言っています。    

裁判長: 異議を認めます。証人は今後、そのような差別的発言を控えるように。

それでは、実際に中国ではどの程度蔓延していたのですか?

(弁)Alcock元中国公使: アヘンの吸飲者は伝えられているほど多くはなく、輸入アヘンと中国産アヘンの総量は年間12万担だったので、中国人口で割ると1%に過ぎなかったと思います。だから、アヘンはお金に困らない人の贅沢な遊びだったと思っていました。

(検)宣昌領事スベンス: 私が見たところでは、庶民の間ではアヘンは何回も使い回しされ、最後にはお茶に溶かして飲まれる有様でした。中国産アヘンも予想以上に多く、少量の消費者が大量に消費する人の何倍もいたはずです。

(検)イギリス商人クーパー: 私は中国の奥地を調査しました。東インド財政特別委員会でも証言したように、四川や雲南では男性の80%、女性の50%が吸飲者だと見積もりました。アヘンは金持ちの道楽といいますが、私はチョー貧しい駕籠かきが一日の収入250文のうちアヘンに150文を使い、一日中アヘンを口から離さず、アヘンの虜になっている悲惨な姿を見ました。

 

裁判長: それでは、アヘンは適度ならば良いということだったのでしょうか?

(弁)牛荘の医師Watson: 医師の立場から見て、アヘンにはそれほど害はありません。10%ほどの例外を除いて、適度に吸っている吸飲者は仕事にも健康にも問題はありませんでした。

(弁)Alcock元公使: 人間がアヘンをいつまでも適度な量を保ったまま消費できるかは分かりませんでした。もしそれが可能であったとしても、健康を害することなく止められるかどうかも分かりません。分からなかったというのが、当時の常識でした。

(検)London Missionary Society メンバー: 我々の北京のアヘン治療院では、吸飲者に禁断症状を克服させるのが極めて困難で、成功した例はありませんでした。

(検)イギリス商人クーパー: アヘンは1日1回、1週間か10日ほど吸飲しただけで、止められなくなるほど、習慣性の強い薬物でした。

 

裁判長: 薬としてのアヘンという考え方にはどうですか?

(弁)元上海領事ウェンチェスター: 私は、中国でアヘンがマラリアや不衛生な食べ物による下痢を治す民間療法として使われるのを見ました。

(検)北京の医師ダジョン: マラリアや下痢の治療にアヘンが使われていたと言いますが、症状は緩和できるかも知れませんが、病気そのものを予防したり、治療したりすることはできません。

 

裁判長: それでは判決を読み上げます。主文、被告人は有罪。  

当時の一般的なイギリス人が持っていたアヘンについての常識が被告人の陳述したようなことであったとしても、アヘンを輸入販売していた被告の場合は、アヘン吸飲の実態を見ていたわけで、検察側証人以上に、アヘンの害毒や習慣性について正確な知識があったと考えるのが妥当です。  

時効が成立していて罪にはなりませんが、裁判長から一言。デリバティブやM&Aなどで庶民を泣かせることなく、これからはまっとうな会社として社会に貢献して行くことを期待します。  

閉廷!!    

トン、トン。

 

写真は、香港の中環(central)の皇后像広場から見た夜景。左からマンダリンホテル(Jardineのホテル)、今は立派に更生したJardineの本社(Jardine House、怡和大厦)、国際金融中心二期とビルが並ぶ。香港の金融の中心街で、この広場の左が例の香港上海銀行(HSBC)で、後ろが立法會大樓。  

今も香港はJardineの町だった。裁判長はもう二度と香港には行けないかも・・・。    

参考文献

1)新村容子:アヘン貿易論争 イギリスと中国、汲古書院、2000