第128弾 のむけはえぐすり 古代の帰化人 山城の秦氏 お稲荷さん2009年07月03日 02時06分42秒

のむけはえぐすり;伏見稲荷の狐

第128弾  のむけはえぐすり
古代の帰化人 山城の秦氏 お稲荷さん

 今回は、落語仕立てで。

「火事、けんか、伊勢屋、稲荷に犬のくそ」と申しますが、火事とけんかは江戸の華。伊勢屋という名のお店も、江戸八百八町、どこの町にも必ず一軒や二軒はあったと申します。それにも増して多かったのが、お稲荷さんで、お社や祠が方々にございました。大店やお武家の屋敷神まで入れたら、それこそ犬のくそ並。どこにでもあるものを例えた、江戸の諺でございます。

そんなお稲荷さんのご本家は、京は伏見の稲荷神社でございます。昔、山城国風土記という本には、秦の公(きみ)の伊呂具(いろぐ)というお方が、庭に稲を積まれると、積んだ稲が白い鳥になって山の方に飛んで行ったと申します。降りたところに、稲が生(な)ったことから、稲成り、イナリと呼ぶようになったと、書かれていたそうでございます。

ご本尊には、五穀を司る倉稲魂神(うがのみたまのかみ)という翁神が祭られております。その翁神は稲の束を天秤でお担ぎになっている。そのお姿で、稲の荷を負う、稲荷の字が当てられたと申します。

この神様のお使いが狐でございまして、どこのお稲荷さんにも、必ず狐の像がございます。写真は伏見稲荷の狐で、いわば狐の元祖でございます。口にくわえた玉が火炎の玉。お稲荷さんの鳥居が赤く塗られていますのも、赤が火炎の色だからと申します。

世の中には、狐をお稲荷さんそのもののように申す方もいらっしゃいます。稲の神様を御食津神(みけつかみ)と申します。狐もかつては「けつ」と呼ばれていたようで、この神様には三つの狐(三狐神)の字が当てられ、そこから、狐がお稲荷さんそのものと考えられるようになったという話でございます。

狐の好物は油揚でございます。それで、油揚で作った食べ物を、俗にイナリと言うようになり、甘辛く煮た油揚の、中を開いて酢飯を詰めたものを、稲荷寿司と申します。歌舞伎に、助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)という十八番がございますが、主人公の助六の相方が揚巻という名の太夫で、助六寿司は、揚げと巻き、稲荷寿司と海苔巻きのお詰め合わせを洒落て呼んだと申します。

お話は、前回ご案内の蚕ノ社の続きへと参ります。

蚕ノ社を出ますと、そろそろお昼時となりました。ぼちぼち駅の方に歩いて参りますと、間もなく、「茶そば」と書かれた看板のあるお店が目に入ります。

軽くそばでもと思い、お店に入りますと、誰もおりませんで、閑散としております。
「誰か?」と、奥に声をかけますと、「ヘェ」と一言、女将が奥から出て参ります。
ビールを注文しながら、お品書きというのを見ておりますと、うどんと書かれているものの、肝心の茶そばというのがございません。うどんの横には、タヌキやらキツネが書かれております。

「茶そばは?」と聞いてみると、「はァ、うちは茶そばですゥ」と、拍子抜けしたような京言葉が返ってまいります。腑に落ちないまま、「たぬきのそばを、ひとつ」と、そばを強調しながら注文いたしますと、「へェ」と言ったっきり、女将はまた奥へと消えていきます。

しばらくして、女将が持ってきたものは、正真正銘、茶そばの上にあんかけのかかった油揚のトッピング。江戸で言えば、あんかけキツネの茶そば。
「これがタヌキ?」というと、確信に満ちた顔の割には、「へェ」と返事は頼りない。

大きな油揚をかじってみると、歯切れがいい。澄んだそばつゆとあんかけを混ぜながら、ズルズルと、とろみのある茶そばを食べました。

すっかり食べ終えたところで、
「これから、タクシーで伏見稲荷まで」と話しますと、
「お客さん、そんなもったいないことせェへんと、そこに地下鉄がありますゥ。京阪三条で乗り換えたらよろしいがナ」

これまた、手持ちの地図にはない駅を教えられ、半信半疑、歩いて行きますと、新しくできたばかりの駅がございます。そこから電車を乗り継ぎ、伏見稲荷へと参りました。

さて、横浜に戻った信チャン。長屋のご隠居に、京であった不思議なそばの話をいたしますってェと、

ご隠居。「それは、それは、おもしろい体験をしなさった。私も確かなことは分からないのだが」と前置きをしながら、「京でもソバと言えばソバだが、茶そばのことをうどんと言う所があるというのは、私も聞いたことがある」

「それに・・・」と、ご隠居。
「江戸でタヌキと言えば、そばもうどんも揚げ玉がのったもの。キツネと言えば、油揚がのったものというのが常識だが、上方はそうではない」
「大阪では、油揚がのったうどんをキツネ、油揚がのったそばをタヌキと言うそうで、これが京に行くというと、油揚がのったうどんやそばをキツネと言うのはこちらと同じだが、その上にあんかけをかけたものをタヌキと言うそうだナ」

信チャン。「それで、タヌキのくせに、鼻をつままれた・・・」