キンキの話2006年03月16日 12時51分49秒

第6弾  キンキの話

フライペンの煮魚は美味しい。雑誌「横浜」に紹介された時も、メイン料理はキンキだった。韓国風に辛く煮る。
 辛さを出すコチュカル(唐辛子の粉)からして、こだわりがある。韓国で買って来たものを使う。確かに、太陽に干されて真っ赤になったテヤンチョと呼ばれるコチュカルの赤さは澄んでいて、辛さも上品だ。
 キンキは紫外線の届かない深海にいる。赤外線に紛れ保護色になるため、体は赤い。つり上げて直ぐのキンキは、薄いオレンジである、このぐらいのキンキだと、肝もプリッとして美味しい。皮のゼラチンも、キョロキョロとした食感が保たれている。一匹2000円前後の高級魚である。

 ここまで素材にこだわれば、美味しくないはずはない。食通は、腹から食べる。両脇の腹はとりわけゼラチンに富んでいる。ムナビレ、いわゆる「魚の魚」の辺りが一番キョトキョトしたところだ。「魚の魚」とは「鯛の鯛」のもじりだが、ムナビレの付け根に、鯛なら鯛に似た形の骨があって、どの魚にもある。これを壊さず、きれいにしゃぶって、そっと皿の隅に置くのが、煮魚食いの最高の楽しみだ。これをやったら、「おそれ入ったか」、「おそれ入りました」と、店の人と無言の会話が楽しめる。

 次は頭だ。まず、目の下に箸を入れて、下顎をはずす。U字型に顎がはずれ、二つに折って、一本ずつしゃぶる。次に、顎の骨をはずして頬肉を食べ、小さな薄い骨を数個、口から出す。要するに、全部しゃぶる。塩分がどうだなどは、後で気にする。
 身は美味しい肴の後の、ご飯みたいなものだ。一挙に食べる。ただ、縁側に当たる部分は例のキョトキョトなので、ここは小骨が舌先に刺さるのを避けながら、啜(すす)る。
 食べ終わった後、猫またぎになった小さな骨の固まりと、これ見よがしに置いた「キンキのキンキ」を見ると、征服感と達成感がわいてくる。キンキは食べるのにも、結構気合いがいる。