のむけはえぐすり 第104弾 原善三郎の話 その82 ジャーディン・マセソン商会 高島炭坑2008年10月03日 04時17分50秒

のむけはえぐすり:後藤象二郎さん

のむけはえぐすり   第104弾 

原善三郎の話  その82 ジャーディン・マセソン商会 高島炭坑

 

長崎市から14.5Km離れた沖に、高島、端島(今の軍艦島)など、いくつかの小さな島がある。平家の落人が住み着いたというのから、知る人も少ない島だったのだろう。そんなところに1695年に石炭が発見され、その後、有田焼の燃料として細々と採炭が続けられていた。

 

幕末になると、幕府や西国の雄藩は石炭で走る蒸気船を長崎のグラバーさんから買い求めた。1858年(安政5年)に締結された通商条約では、日本に寄港する外国船に石炭を供給することが定められた。石炭の需要は急増し、筑豊の炭坑は急ぎ増産体制に入った。

 

それまでは農閑期に農民が片手間に採炭作業をしていたが、堀子と呼ばれる石炭を掘り出す人夫として、飢餓で食い詰めた百姓やら流れ者(遊民)が集められた。気の荒い丁場を管理するためには、棟梁と呼ばれる現場監督も必要になる。坑内運搬の人夫も、港から運び出す運搬船も要る。儲けも大きいが、莫大な資金がかかるのが炭鉱経営だ。

 

グラバーさんは1868年に佐賀藩と一緒になって、高島炭坑の開発に乗り出した。45メートルもの深さに竪坑を掘り、巻き揚げるために蒸気機関を稼働させ、日本で最初の近代的な炭坑を目指した。ジャーディン・マセソン商会の横浜支社は、その資金を提供した。

 

だが、その頃は1866年に始まった世界恐慌の最中で、グラバーさんは石炭以外の事業にも失敗を重ねていた。炭坑の資金繰りに困ったグラバーさんは内緒で高島炭坑を抵当に入れ、オランダの商社から借金をした。それを知ったジャーディン・マセソン商会は資金を引きあげ、グラバーさんは1870年に破産に追い込まれた。高島炭坑の利権はオランダの商社に移った。

 

一旦、ジャーディン・マセソン商会は高島炭坑から手を引くのだが、1874年から再び高島炭坑に投資をすることになる。ここで登場する主な人物は3人。後藤象二郎さんとWittallさんと竹内綱さんだ。

 

1871年(明治4年)、その時のオランダの商社が旧佐賀藩との炭鉱経営の合弁事業を日本政府に申請してきた。太政官は鉱山・鉱物は政府の所有という「鉱山王有制」の立場で、外国資本排除を意味する「本国人主義」を掲げ、この申請を却下した。オランダの商社は炭坑経営をあきらめ、最終的に賠償金40万ドルを日本政府から支払われることで合意し、高島鉱山は官収された。

 

一年もたたぬ内に、高島鉱山が民間に払い下げられるという情報が、工部卿伊藤博文さんから竹内綱さんにもたらされた。価格も45万ドルと知らされ、竹内綱さんは同じ土佐藩出身の後藤象二郎さんに話を持ちかけた。

 

結局、1874年に高島炭坑は後藤象二郎さんに55万ドルで払い下げられた。後藤さんは20万ドルの即納金の立て替えをジャーディン・マセソン商会に依頼した。これを察知した太政官は、払い下げに先立ち、1873年にわが国最初の鉱業法である「日本坑法」を制定し、あくまでも外国人排除の原則を貫く姿勢を示し、鉱山経営の手続きを規定した。

 

にもかかわらず、後藤さんはジャーディン・マセソン商会から借金をした。その上、借入金は炭坑の営業利益から返済し、ジャーディン・マセソン商会の横浜支店長のWittallさんを15年間の一手委託販売人に指定し、手数料を支払い、鉱山経営を委ねるという密約まで交わしている。すべてが「日本坑法」に違反していた。    

実はその頃既に、後藤さんはジャーディン・マセソン商会に30万ドルにものぼる借金があった。この借金はWittallさんの独断で行われ、Wittallさんも回収に苦慮していた。高島炭坑の払い下げは、その借金返済のためであった。

 

写真は、後藤象二郎さんである。後藤さんは土佐藩の出身で、吉田東洋さんのもとで板垣退助さんらとともに学んだ。藩主山内容堂の信頼も厚く、大政奉還を実現させた立て役者でもあった。1873年(明治6年)に征韓論に敗れた西郷さんらとともに、後藤さんも参議を辞し下野した。後藤さんはその前年から、今で言えば総合商社となる「蓬莱社」の設立に向けて動き出していた。後藤さんへの借金は、「蓬莱社」に対して行われたものだった。

参考文献

1)永末十四雄:筑豊万華 炭坑の社会史、三一書房、1996

2)小林正彬:後藤象二郎より買収以後の三菱高島炭坑、関東学院大学 経済系、215、71-87、2003

3)石井寛治:近代日本とイギリス資本 ジャーディン・マセソン商会を中心に、東京大学出版会、2001

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